「今期の目標は高すぎる」 「こんな数字、一体どうやって達成するんだ」 「現場のことが何も分かっていない」
経営者や営業責任者であれば、年度初めや四半期のキックオフ後、現場からこうした声が間接的に聞こえてきて、頭を抱えた経験が一度はあるのではないでしょうか。
企業が持続的に成長するためには、現状維持ではなく、常にストレッチ(背伸び)した高い目標を掲げることが必要不可欠…企業経営において、高い目標設定は成長のために必要な行為です。しかし、その「熱意」や「期待」が、現場の営業メンバーに正しく伝わらなければ、それは「挑戦」ではなく「重圧」となり、組織の士気を著しく低下させる「毒」にもなり得ます。
部下の「高すぎる」という言葉を、単なる「甘え」や「やる気のなさ」と片付けてしまうのは簡単です。しかし、そうした瞬間にこそ、組織が抱える課題、あるいは経営者自身のマネジメントスタイルを見直す絶好の機会が潜んでいます。
本日は、「高すぎる目標」と嘆く部下の本音を読み解き、彼らのモチベーションを正しく引き出し、組織全体の成長につなげるための考え方について、深く掘り下げてまいります。
第1章:「高すぎる」という言葉の裏にある「4つの本音」
部下が「目標が高すぎる」と口にするとき、その背景には単なる数字の大きさに対する拒否反応だけではなく、もっと複雑な心理が隠されています。経営者は、その表面的な言葉だけを受け取るのではなく、裏にある「本音」に耳を傾ける必要があります。
1. 「達成への道筋」が見えないという不安
最も多いのがこのケースです。経営陣が「売上2倍」という壮大な「山頂」を示しても、現場のメンバーには「今いる場所(現在地)」から「山頂」までの「登り方(プロセス)」が見えていません。 「既存顧客の単価を上げるのか?」 「新規開拓に注力するのか?」 「新商品を開発するのか?」 具体的な戦略や戦術が共有されないまま「気合と根性で登れ」と言われても、何をどう頑張れば良いのか分からず、ただ途方に暮れるばかりです。これは「やる気」の問題ではなく、「具体的な行動計画」の問題です。
2. 「どうせ報われない」という過去の諦め
以前にも高い目標が掲げられたものの、結局達成できず、評価だけが下がったり、過度なプレッシャーにさらされたりした経験(失敗体験)があると、部下は「どうせ今回も同じだろう」と、挑戦する前から諦めてしまいます。 「やってもやらなくても未達なら同じ」「頑張ったプロセスは評価されない」という空気が組織に蔓延している場合、新たな目標は「希望」ではなく「絶望」の合図となってしまいます。
3. 「武器がない」というリソース不足
目標は高いのに、それを達成するための「武器」が足りていないケースです。 「営業人員が足りない」 「顧客管理のツールが古い(または、ない)」 「マーケティングからの支援(リード)が乏しい」 「研修や育成の機会がなく、スキルが追いつかない」 十分な装備も持たさずに「戦ってこい」と言われているような理不尽さを感じれば、不満が出るのは当然です。
4. 「なぜ?」が分からないという納得感の欠如
「なぜ、今、この目標なのか」という背景や目的への「納得感」が得られていない状態です。 会社全体のビジョンや戦略と、目の前の数字がどう繋がっているのかが理解できなければ、目標は「会社から押し付けられたノルマ」であり、他人事でしかありません。 人間は、自分がやっている仕事に「意味」や「貢献実感」を見出せないと、本気で力を発揮することは難しいものです。
第2章:部下の心を閉ざす「NGな対応」
部下から「高すぎる」というシグナルが出た時、経営者やマネージャーが取りがちな、しかし組織の成長を阻害する「NGな対応」を見ていきましょう。
NG1:精神論・根性論で押し切る 「やる前からできない理由を探すな」 「プロ意識が足りない」 「気合でなんとかしろ」 こうした言葉は、一見すると強く見えますが、何の解決にもなりません。部下は「もうこの人には何も言うまい」と口を閉ざし、心の中では諦めてしまいます。対話の拒否は、信頼関係の崩壊の始まりです。
NG2:他者との比較で煽る 「A君は『やります』と言っているぞ」 「競合他社はもっと高い目標で動いている」 他者との比較は、一時的な起爆剤にはなるかもしれませんが、持続しません。むしろ、「ウチはウチ、ヨソはヨソ」という反発や、同僚間の不必要な対抗意識、あるいは「自分はダメだ」という劣等感を生み出し、チームワークを阻害します。
NG3:「決まったことだ」と議論を打ち切る 「これは経営会議で決まったことだから」 「文句を言っても何も変わらない。実行しろ」 これは、マネジメントの放棄に他なりません。現場の状況や意見を吸い上げる努力をせず、トップダウンで押し付けるだけでは、部下は「駒」として扱われていると感じ、主体的に動くことをやめてしまいます。
第3章:「やってみよう」を引き出すための正しいアプローチ
では、「高すぎる目標」を、部下が「挑戦してみよう」と思える「自分ごと」に変えるためには、経営者やマネージャーは何をすべきでしょうか。
1. まずは「事実」を受け止め、傾聴する(1on1の活用)
部下が「高すぎる」と言ってきたら、それを「反論」ではなく「貴重な情報提供」として受け止めてください。 「そうか、高すぎると感じているんだな。具体的に、どのあたりに一番『壁』を感じるか、聞かせてもらえるか?」 まずは、部下の発言を否定せず、遮らずに最後まで聴きます。定期的な1on1ミーティングなどを活用し、彼らが前述の「4つの本音」のどれを抱えているのか(道筋が見えないのか、リソースが足りないのか、納得感がないのか)を冷静に把握することが第一歩です。
2. 「山頂」だけでなく「登り方(プロセス)」を一緒に考える
目標達成の責任は部下個人にありますが、達成を支援し、環境を整えるのはマネジメントの責任です。 「目標が高すぎる」という部下の多くは、「今のやり方のまま」では達成できない、と感じています。 「もし、この目標を達成できるとしたら、今のやり方で何を変える必要があると思う?」 「どこが一番のボトルネック(障害)になりそうか?」 このように問いかけ、目標と現状のギャップを埋めるための「新しいやり方」「効率的なプロセス」を一緒に考える姿勢が重要です。ここで、過去の成功事例や、他のメンバーのやり方を共有するなど、「行動の選択肢」を増やす手伝いをします。
3. 大きな目標を「実行可能なサイズ」に分解する
「年間売上2倍」という大きな目標は、プレッシャーにしかなりません。しかし、「そのために、今月は新規の商談数を10件増やす」「今週は、そのためのリストを30件作成する」と分解されれば、やるべきことが明確になります。 高い目標を、月、週、日といった時間軸や、行動のステップ(アポ取り、商談、提案、クロージングなど)に細かく分解し、「今日やること」に集中できるように導きます。 この「分解」こそが、漠然とした不安を具体的な行動計画に変える鍵となります。
4. 「小さな達成」を評価し、成長を実感させる
重要なのは、最終的な「成果」だけを評価するのではなく、分解した「小さな行動」や「小さな目標」の達成を、こまめに承認することです。 「今週のリストアップ、目標通り完了したな。素晴らしい」 「先週の提案資料、顧客の反応が良かった部分をチームにも共有してくれないか」 日々の振り返りや1on1の中で、こうした「小さな成功体験」を積み重ねさせること。これが「やればできるかもしれない」という「達成実感」や、昨日より今日成長しているという「成長実感」に繋がり、次のより大きな挑戦への意欲を育みます。
5. 「なぜやるのか」という目的(意味)を共有する
人は「やらされ仕事」では力を発揮できませんが、「意味のある仕事」のためなら困難にも立ち向かえます。 「なぜ、会社はこの高い目標を目指すのか?」 「その達成が、顧客にとってどんな価値を生むのか?」 「その結果、皆さんの働きや待遇にどう繋がっていくのか?」 数字の裏にある「目的」や「ビジョン」を、経営者自身の言葉で、情熱を持って語り続けることが不可欠です。部下が自分の仕事と会社の未来、そして社会への貢献との繋がりを感じられた時、目標は「ノルマ」から「使命」に変わります。
結論:部下の「嘆き」は、組織が強くなるためのサイン
「目標が高すぎる」という部下の言葉は、経営者にとって耳の痛いものかもしれません。しかし、それは「抵抗」ではなく、**「今の組織の仕組みや、育成の方法、リソース配分では限界が来ていますよ」**という、現場からの重要な「フィードバック」です。
その声に蓋をし、精神論で押し切れば、組織は一時的に動くかもしれませんが、やがて疲弊し、優秀な人材から去っていきます。 逆に、その声を真摯に受け止め、対話し、部下が「やれるかもしれない」と思える「道筋」を照らし、「成長」を支援し、その行動が正しく評価される「仕組み」を整えること。
それこそが、経営者や営業責任者に求められる、本当のマネジメントです。
部下一人ひとりが「達成実感」や「成長実感」を感じながら、主体的に働ける環境を構築すること。それこそが、結果としてどんなに高い目標をも達成し続ける、「持続可能な強い営業組織」の土台となるのです。
御社の営業組織は、高い目標を「重圧」ではなく「やりがい」として共有できているでしょうか。一度、現場の声にじっくりと耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
