企業の経営者様、営業責任者様にとって、「営業」は会社の成長を牽引するエンジンそのものです。しかし同時に、最も悩みの多い部門ではないでしょうか。
「今月は目標を達成したが、来月はどうなるか数字が読めない」 「営業のやり方が人によってバラバラで、成果が安定しない」 「特定のエース社員に売上の多くを依存してしまっている」 「彼・彼女が辞めたら、会社の業績はどうなってしまうのか…」 「マネージャーが自分の案件で手一杯で、部下の育成に手が回っていない」 「若手や中堅が思うように育たず、離職率も高い」
こうした悩みは、多くの企業が共通して抱える課題です。そして、これらの問題の根底には、営業活動が「個人の経験や勘、頑張り」といった属人的な要素に強く依存してしまっている、という構造的な要因が潜んでいるケースが少なくありません。
本日は、こうした属人的な体制から脱却し、予測可能で安定した成果を生み出し続ける**「自走する営業組織」**をいかに構築するか、そして、それがなぜ企業の未来にとって「投資」と呼ぶべき活動なのかについて、考察してまいります。
1. なぜ今、「自走する営業組織」への投資が必要なのか
現代は、市場環境の変化が非常に激しい時代です。顧客がインターネットを通じてあらゆる情報を手に入れられるようになり、営業担当者が情報提供するだけでは価値を生み出しにくくなりました。顧客のニーズは多様化・複雑化し、従来の「売れる商品・サービス」が明日も売れ続ける保証はどこにもありません。
このような環境下で、一人の「トップセールス」の活躍に頼る経営は、非常に不安定です。そのエース社員が退職したり、スランプに陥ったりした途端、会社の業績は大きく傾いてしまいます。
これからの時代に求められるのは、個人の才能に依存する「点の力」ではなく、組織全体で安定的に成果を出し、環境の変化に適応し続ける「面の力」、すなわち**「組織営業力」**です。
「自走する営業組織」とは、まさにこの組織営業力を体現するものです。経営者やマネージャーが細かく指示を出さなくても、メンバー一人ひとりが会社の目指す方向を理解し、自ら課題を発見し、考え、仲間と協力しながら改善行動を起こし続けられる組織のことを指します。
こうした組織を構築するには、時間も労力もかかります。しかし、これは単なる「コスト」ではありません。目先の売上を確保することと同じ、あるいはそれ以上に重要な、**「会社の10年後、20年後の安定と成長」を生み出すための「投資」**です。この「投資」という考え方への転換こそが、変革の出発点となります。
2. 「自走」を妨げている、組織に潜む3つの壁
多くの経営者様が「営業を仕組み化したい」「組織を強くしたい」と考え、様々な施策を実行されてきたことでしょう。しかし、期待したほどの成果が得られていないとしたら、そこには乗り越えるべき「壁」が存在しているのかもしれません。
壁1: 「見える化」の誤解(“管理”のための見える化)
「まずは営業活動を可視化しよう」と、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を導入する企業は増えています。しかし、それが「メンバーを管理・監視するため」のツールになってはいないでしょうか。
マネージャーがデータを見て、「なぜ行動量が足りないんだ」「日報が入力されていないぞ」と“詰める”ためだけに使われていては、メンバーは正直な情報を入力しなくなります。むしろ、叱責を避けるための「体裁を整えた報告」が並ぶようになり、実態はますます見えなくなるという悪循環に陥ります。
本来、「見える化」の目的は、管理ではなく**「改善のヒント」**を見つけることです。どこにボトルネックがあるのか、どの活動が成果に繋がりやすいのかを客観的な事実に基づいて分析するためにこそ、データは活用されるべきです。
壁2: 「仕組み」と「個性」の対立
成果の安定化を目指し、トップセールスの「勝ちパターン」を標準化しようと試みることもあります。しかし、それを単なる「マニュアル」として現場に押し付けてしまうと、メンバーの反発を招きがちです。
特に、経験豊富なベテラン社員からは「自分のやり方がある」と抵抗され、若手や中堅は「型にはめられて窮屈だ」「自分らしさが発揮できない」と感じ、モチベーションを失ってしまうかもしれません。
仕組みやルールは、メンバーの個性を縛り付ける「檻」であってはなりません。それは、メンバーが迷わずに行動でき、安心して自分の個性を発揮するための**「土台」**として整備されるべきものです。
壁3: マネージャーの「育成」時間と思考の不足
最も深刻な壁は、マネージャーの機能不全かもしれません。多くの営業マネージャーは、自身の目標数字も抱える「プレイングマネージャー」です。
部下の指導や育成に時間を割くよりも、自分で営業に出た方が早いし、確実。そう考えて、結局はチームの業績を自分一人の売上で牽引してしまってはいないでしょうか。
これでは、マネージャー自身が疲弊するだけでなく、部下はいつまで経っても「上司の背中を見て学べ」という古い育成スタイルから抜け出せません。結果として、部下は育たず、マネージャーの負担は増え続ける一方になります。
マネージャーの最大の役割は、自分がプレイヤーとして成果を出すことではなく、**「チームの成果を最大化すること」**であり、そのための「仕組みの運用」と「部下の育成」にあるはずです。
3. 「自走する組織」を育む、2つの土壌
では、これらの壁を乗り越え、メンバーが自ら考え動く組織を育むためには、どのような土壌が必要なのでしょうか。私たちは、特に2つの要素が重要だと考えています。
土壌1: 「事実」に基づく対話の文化
一つ目は、営業活動の「見える化」によって得られた客観的なデータ、すなわち「事実」に基づいて対話する文化を根付かせることです。
営業会議や日々の振り返りが、「今月の目標、達成できそうか?」「なぜ、できなかったんだ?」といった、感覚的・精神論的な「詰め」の場になっていては、前向きなアイデアは生まれません。
そうではなく、例えば「商談数は多いのに、なぜ契約率が低いのだろうか」「Aさんは訪問後の御礼メールを徹底しているが、それが次のアポイントに繋がっているようだ」といった、事実(What)に基づき、「なぜ、そうなっているのか」(Why)を冷静に分析し、「では、次どうするか」(How)をチームで考える場に変えていく必要があります。
日々の活動の中で、こうした**小さな「振り返り」と「改善」**を高速で回し続けること。その積み重ねが、やがて大きな成果の差となって現れます。
土壌2: 「個」の成長を「組織」の力に変える仕組み
二つ目は、メンバー一人ひとりの「個性」や「強み」を活かし、その成長を組織全体の力へと変えていく仕組みです。
前述の通り、トップセールスのノウハウを分析し、他のメンバーでも再現できる部分を「仕組み」や「標準プロセス」として整備することは有効です。しかし、それだけでは不十分です。
どんなに優れた仕組みも、それを動かし、使いこなすのは「人」に他なりません。 ここで重要になるのが、マネージャーによる「育成」の役割です。
マネージャーは、メンバーがその仕組みを理解し、実践できるようにサポートする必要があります。さらに一歩進んで、メンバー一人ひとりの個性や強み、あるいは弱みを理解し、「君の場合は、このプロセスを特に意識してみよう」「君の強みである傾聴力を、この場面でもっと活かせないか」といった、個別の働きかけが求められます。
そのための有効な手段の一つが、定期的な**「1on1ミーティング」**です。これは、マネージャーが部下の進捗を管理する場ではありません。部下が今、何に悩み、何を目指しているのかに耳を傾け、その成長を支援するための「対話」の場です。
メンバーが「やらされ感」で仕事をするのではなく、「この会社では自分の強みが活かされている」「仕事を通じて成長できている」「チームに貢献できている」と実感できること。 こうした実感こそが、メンバーの主体性を引き出し、「自走する組織」を支える何よりの原動力となります。
結論:未来への投資は「今」始まる
「自走する営業組織」は、一朝一夕には完成しません。魔法のような解決策も存在しません。
しかし、経営者様が「これは未来への投資である」という強い意志を持ち、まずは自社の営業活動の実態を「事実」として正しく把握することから始め、現場のマネージャーやメンバーと対話を重ねながら、日々の小さな改善を辛抱強く回し続けること。
その取り組みこそが、貴社の営業組織を「個人の頑張り」に依存する不安定な状態から、**「組織の仕組み」と「育った人材」**によって安定的に成果を出し続けられる、盤石な体制へと変えていきます。
それは、メンバー一人ひとりが自分の仕事にやりがいと誇りを持ち、楽しみながら最高のパフォーマンスを発揮できる組織の姿でもあるはずです。
貴社の未来を創る「自走する営業組織」への投資を、今、この瞬間から始めてみてはいかがでしょうか。
