「The Model」型組織、理想と現実のギャップ。部門連携を円滑にするKPI設定の考え方

導入:理想と現実のギャップ

経営者や営業責任者の皆様にとって、「営業の仕組み化」は常に大きなテーマかと存じます。

近年、その具体的な手法として、マーケティング(リード獲得)、インサイドセールス(見込み客育成・アポ獲得)、フィールドセールス(商談・受注)、カスタマーサクセス(契約後の支援・活用促進)といった形で、営業プロセスを分業する、いわゆる「The Model(ザ・モデル)」型の組織体制を導入する企業様が非常に増えています。

このモデルは、各部門が専門性を高めることで、営業活動全体の効率化と生産性の向上、ひいては売上の最大化を目指すものです。導入を検討される経営者の皆様は、営業の属人化からの脱却や、データに基づいた科学的な営業活動への変革といった、明るい未来を描いていらっしゃることでしょう。

しかし、現実はどうでしょうか。「鳴り物入りで導入したものの、期待した成果が全く出ていない」「むしろ、導入前より部門間の風通しが悪くなり、かえって非効率になっている」――。残念ながら、こうしたお悩みや課題感をお持ちの経営者様も少なくないのが実情です。

なぜ、営業の「特効薬」とも思われた「The Model」が、多くの企業でうまく機能しないのでしょうか。

本日は、The Model型組織の導入でつまずかないために、特に重要となる「部門連携」と「KPI設定」の要点について、具体的な失敗例を交えながら解説していきます。

1. なぜ「The Model」は失敗しやすいのか?

The Model型組織が失敗する最大の理由は、「分業」が意図せず「分断」になってしまうことにあります。

各部門がそれぞれの役割に特化することは、一見すると効率的に思えます。しかし、そこに落とし穴があります。よく見られる失敗パターンを2つご紹介します。

パターン1:部門の「サイロ化」とKPIの暴走

最も多い失敗が、各部門が自分たちに課されたKPI(重要業績評価指標)のみを追い求めてしまう状況です。

例えば、以下のような悪循環です。

  1. マーケティング部門は、「リード(見込み客)獲得数」をKPIに設定されます。達成のため、質を問わず、とにかく数を集める施策に走りがちです。
  2. インサイドセールス部門は、「アポイント(商談)獲得数」をKPIに設定されます。マーケティングから渡された質の低いリードであっても、何とかアポに繋げようとします。結果として、「話を聞くだけなら」といったような、受注確度の低いアポイントが量産されます。
  3. フィールドセールス部門は、「受注件数」や「受注金額」をKPIに設定されます。しかし、インサイドセールスから渡されるのは確度の低いアポばかり。商談しても全く手応えがなく、時間が浪費されていきます。

この結果、何が起こるでしょうか。

フィールドセールスは「インサイドセールスは、なぜこんなアポばかり寄越すんだ!」と不満を募らせます。一方、インサイドセールスは「せっかくアポを取ったのに、なぜフィールドセールスは決めてくれないんだ!」と反発します。マーケティング部門は、そもそも後続のプロセスで何が起きているか把握すらできていないかもしれません。

このように、各部門が自分のKPI達成だけを考え、隣の部門のミッションや苦労に無関心になる状態。これが「サイロ化」です。「分業」が「分断」を生み、組織全体として最も重要な「受注」や「売上」から遠ざかってしまうのです。

パターン2:顧客体験(C-X)の分断

もう一つの深刻な問題は、顧客側から見た「体験」の分断です。

The Model型組織では、多くの場合、お客様はプロセスが進むごとに関わる担当者が変わっていきます。マーケティング担当者、インサイドセールス担当者、フィールドセールス担当者、そしてカスタマーサクセス担当者……。

ここで部門間の連携が取れていないと、お客様は「この前、別の人に同じ話をしたはずなのに」「こちらの状況が全く引き継がれていない」といったストレスを感じることになります。

各部門は「自分の役割(アポを取る、受注する)は果たした」と思っているかもしれませんが、お客様にとっては、一連の体験がバラバラで、不快なものになってしまいます。これでは、長期的な信頼関係を築くことは難しく、結果として解約率の上昇や、顧客生涯価値(LTV)の低下を招いてしまいます。

2. 「分断」を防ぐための部門連携の要点

では、こうした「分断」を防ぎ、The Modelを円滑に機能させるためには、何が必要なのでしょうか。

要点1:共通の「目的」を持つ

最も大切なのは、分業された各部門が、個別のKPIのさらに上にある「共通の目的」を共有することです。

それは、単なる「売上目標」だけではありません。「私たちのお客様に、どのような価値を提供し、どのような成功体験をしてもらうのか」という、顧客視点に立った上位の目的です。経営者の皆様には、この「共通の目的」を、繰り返し、粘り強く組織全体に発信し、浸透させる役割が求められます。

この共通目的が浸透して初めて、「自分たちの部門の仕事は、お客様の成功プロセスの『一部分』を担っているに過ぎない」という意識が生まれます。そして、「後続の部門に、いかに良い状態でバトンを渡すか」という視点が芽生えるのです。

要点2:情報の「流れ」を設計する

部門間の連携を円滑にするには、精神論だけでは不十分です。SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)といったツールを活用し、「情報が流れる仕組み」を設計することが必要です。

しかし、単にツールを導入するだけでは意味がありません。

例えば、「インサイドセールスがアポを取得した際、お客様が抱えている『真の課題』と、商談に対する『温度感』、そして『懸念点』を、必ずSFAのこの欄に記載する」といった、具体的なルールを定めることが重要です。

重要なのは、後続の部門(この場合はフィールドセールス)が、その情報を見て「受け取って嬉しい」「これなら精度の高い商談準備ができる」と感じるレベルの情報を、スムーズに引き継ぐ仕組みを作ることです。情報が途切れたり、質が低かったりすると、そこがボトルネックとなり、全体の流れが滞ってしまいます。

要点3:定期的な「対話」の場を持つ

仕組みを作っても、運用する中で必ず歪みやズレは生じます。そこで、部門横断での定期的なミーティング、つまり「対話」の場を持つことが重要になります。

ただし、この場を単なる「進捗報告会」や「(達成できなかった部門の)吊し上げの場」にしてはいけません。

SFA/CRMに蓄積された客観的な事実(データ)に基づき、「なぜ、このアポは受注に繋がらなかったのか?」「どのチャネルからのリードが、最も受注率が高いのか?」「どうすれば、カスタマーサクセスでアップセル(追加受注)に繋げられたか?」といった「振り返り」を行う場にするのです。

成功も失敗も、その「理由」を部門横断で分析し、次の改善策を一緒に考える。この地道な「対話」の積み重ねこそが、部門間の相互理解を深め、仕組みをより強固なものへと磨き上げていきます。

3. 連携を促進する「KPI」設定の考え方

The Modelが失敗する大きな原因がKPIにあるのなら、KPIの設計こそが成功の要とも言えます。部門の「分断」ではなく「連携」を促すKPIとは、どのように考えればよいのでしょうか。

考え方1:部門間の「バトン」を評価するKPI

前述の通り、各部門が自分の「量」だけを追うKPI(リード数、アポ数など)は、組織の分断を招きます。

そこで、「質」を評価するKPIや、後続部門への貢献度を測るKPIを組み込むことが有効です。

  • マーケティング部門: 「リード数」だけでなく、「商談化(アポ化)されたリード数」や「商談化率」も重視する。
  • インサイドセールス部門: 「アポ数」だけでなく、「有効商談数(=フィールドセールスが『これは次に進める価値がある』と認定した数)」や、その後の「受注率」も参考指標として追う。

このように、後続の部門から「良いバトンをありがとう」と言われるような行動を評価するKPI設計が、連携意識を高めます。

考え方2:全体の「流れ」を見る指標を持つ

各部門の個別KPIとは別に、経営者や各部門の責任者は、ファネル全体(リード獲得から受注、契約継続まで)の「流れ」を俯瞰する指標を共通で持つべきです。

例えば、「リードがアポになり、商談になり、受注に至るまでの各段階の『通過率』」や、「リード獲得から受注までの『期間(リードタイム)』」などです。

これらの全体指標を定点観測することで、「今、組織全体としてどこがボトルネックになっているのか」が一目瞭然となります。局所的な問題(例:インサイドセールスのアポ数が足りない)に目を奪われるのではなく、全体の流れを最適化する(例:リードの質を高めて、商談化率を上げた方が、結果的に受注数が増える)という、より戦略的な意思決定が可能になります。

考え方3:KPIを「育成」のツールとして使う

KPIは、メンバーの評価や管理のためだけにあるのではありません。むしろ、メンバーの「成長」を支援するために使うべきものです。

特に、マネージャー層の役割は重要です。

KPIの数字だけを見て「なぜ達成できないんだ」と詰めるだけのマネジメントは、メンバーの主体性を奪い、思考停止を招きます。そうではなく、例えば定期的な1on1ミーティングの場などで、KPIの数字を「事実」として使いながら、「なぜ、今月はこの数字になったと思う?」「目標との差を埋めるために、来月はどんな新しいやり方を試してみようか?」と対話し、メンバー自身に考えさせるきっかけとして使うのです。

設定されたKPIは、あくまで「仮説」です。その数字を基に対話を重ね、メンバーの行動やスキルの改善を支援する。こうした「育成」の視点を持ってKPIを運用することが、結果として組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。

結論:仕組みを動かすのは「連携」の意識

The Model型組織は、単なる分業の「形」を導入することではありません。

経営者が主導し、「お客様の成功」という共通の目的のもと、「情報」と「対話」がスムーズに流れる「仕組み」を設計し、それを「適切なKPI」で運用し続ける、継続的な改善活動そのものです。

もし、貴社がThe Model型の組織運営に課題を感じていらっしゃるなら、それは仕組みが悪いのではなく、仕組みを動かす「連携」の部分に問題が潜んでいるのかもしれません。

「我々の組織は、部門間の連携が本当に取れているだろうか?」 「今設定しているKPIは、かえって部門間の対立を生んでいないだろうか?」

もし、こうした問いに少しでも疑問を感じられたなら、それは自社の営業体制を見つめ直す、良い機会です。まずは、自社の営業活動が「今、どうなっているのか」を客観的に把握することから始めてみてはいかがでしょうか。