「すぐに正解を与える」のは管理職の怠慢かもしれない。部下が自ら考え動き出す組織の作り方

はじめに:なぜ、部下はいつまでも「指示待ち」なのか

「どうすればいいですか?」 「次はどこに訪問すればいいでしょうか?」

毎日、部下からこのような質問攻めに遭い、その都度指示を出すことに追われていないでしょうか。経営者や営業責任者の皆様の中には、ご自身がかつてトップセールスとして活躍された方も多いはずです。だからこそ、部下の動きを見ていて「なぜここで動かないのか」「なぜあのお客様に連絡を入れないのか」と、もどかしく感じる場面が多々あることと思います。

部下が迷っている時間を減らし、最短距離で成果を出させるために、つい「次はこうしなさい」「あそこにはこう返信しなさい」と答えを教えてしまう。これは、上司としての親切心であり、短期的な売上を作るための責任感からくる行動です。

しかし、もしあなたが「いつまで経っても現場から離れられない」「自分がいないと営業が回らない」という悩みを抱えているとしたら、その原因は皮肉なことに、あなたのその「的確すぎる指示」にあるかもしれません。

今回は、組織の成長を止めてしまう「答えを教えるマネジメント」の弊害と、そこから脱却し、社員が自ら考え行動し始めるための具体的な育成アプローチについてお話しします。

「正解」を与え続けることの弊害

優秀な営業パーソンだった上司は、過去の経験から「勝ちパターン」を知っています。部下が失敗する前に先回りして正解を教えれば、確かにその場の商談はうまくいく確率が上がりますし、業務効率も良いでしょう。

しかし、これを繰り返すと組織にどのような変化が起きるでしょうか。

1. 「思考停止」の習慣化

上司に聞けばすぐに正解が返ってくる環境では、部下は「自分で考える」ことをやめてしまいます。「自分で考えて失敗して怒られるくらいなら、上司の言う通りにしておこう」という心理が働き、思考することをリスクだと捉えるようになります。結果として、言われたことはやるけれど、それ以上のことは一切しない「作業者」としての営業マンが出来上がります。

2. 変化への対応力の低下

あなたが教えている「正解」は、あくまで「過去の成功体験」に基づいたものです。市場環境や顧客のニーズは常に変化しています。昨日までの正解が、明日も通用するとは限りません。部下が「なぜその行動をとるべきなのか」という背景や論理を理解せず、ただ「言われた通りのやり方」だけを覚えていると、想定外の事態が起きた瞬間に足が止まってしまいます。応用が利かないのです。

3. 上司の時間が奪われ続ける

部下が育たないため、いつまでも上司が現場の判断を行わなければなりません。本来、経営者やマネージャーが使うべき時間は、未来の戦略策定や組織全体の仕組みづくりであるはずです。しかし、日々の細かな営業判断に時間を奪われ、組織を強くするための「重要だが緊急ではない業務」が後回しになってしまいます。これでは、組織の成長スピードは鈍化する一方です。

「教える」から「考えさせる」への転換

自ら考え動く営業マン、いわゆる「自走する人材」を育てるためには、マネジメントのスタイルを「ティーチング(教える)」から「考えさせる」スタイルへと意識的に切り替える必要があります。

ここで重要なのは、突き放すことではありません。「自分で考えろ」とだけ伝えて放置するのは、育成放棄です。必要なのは、部下の思考プロセスを整理し、導くための関わり方です。

質問の質を変える

部下から「どうすればいいですか?」と聞かれたとき、すぐに答えを返していませんか? まずはグッとこらえて、「君はどうするのがベストだと思う?」と問い返してみてください。

最初は「わかりません」と返ってくるかもしれません。あるいは、見当違いな答えが返ってくることもあるでしょう。それでも構いません。大切なのは、部下の脳内で「状況を整理し、仮説を立てる」という回路を動かすことです。

もし部下が答えに詰まるようなら、思考の補助線を引いてあげます。 「お客様が一番気にしている課題は何だった?」 「競合他社と比較したときの、我々の強みはどこだと思う?」 「もし君がお客様の立場だったら、どういう提案なら話を聞こうと思う?」

このように、視点を変える質問を投げかけることで、部下は多角的に物事を捉える練習を積むことができます。これを繰り返すことで、部下の中に「上司ならどう考えるか」という視点が育ち、徐々に相談の質が変わってきます。

データの「見える化」が思考の土台になる

「考えろ」と言われても、材料がなければ考えることはできません。勘やセンスに頼らず、論理的に営業戦略を組み立てるためには、客観的な事実、つまり「データ」が必要です。

多くの営業組織で起きている問題は、営業活動がブラックボックス化していることです。 「頑張っています」「手応えはあります」といった主観的な報告ばかりが上がり、実際に「誰が」「どこで」「何をしているのか」が曖昧なままでは、上司も的確なフィードバックができませんし、部下も何を改善すればいいのかわかりません。

まずは、営業プロセスの現状を数字や事実として「見える化」することがスタートです。 例えば、

  • リード(見込み客)から商談化する確率はどのくらいか
  • 初回訪問から提案に進む割合はどうか
  • 失注した案件の主な理由は何だったか
  • トップセールスと伸び悩んでいるメンバーの行動量の差はどこにあるか

これらが明確になっていれば、部下との対話はより具体的になります。「もっと頑張れ」という精神論ではなく、「提案段階での失注が多いね。ヒアリングで課題を深掘りできていない可能性があるから、そこを見直してみよう」というように、事実に基づいた仮説検証ができるようになります。

正しいデータがあれば、部下自身も「自分のボトルネックはどこか」を客観的に認識できるようになります。これが、自律的な改善行動への入り口となります。

1on1ミーティングの本当の役割

社員の育成において、近年多くの企業で導入されている「1on1ミーティング」。しかし、その実態は単なる「業務進捗確認の場」になってしまっているケースが少なくありません。

「今月の数字はどうなってる?」 「あの案件はいつ決まる?」

このような会話だけで終わっているのであれば、それはただの「詰め」の場であり、部下にとっては苦痛な時間でしかありません。これでは育成どころか、モチベーションを下げてしまいます。

自走する営業を育てるための1on1は、「振り返り」と「未来の行動変容」のために使うべきです。

1. 成功と失敗の要因分析(振り返り)

結果が出たときも出なかったときも、「なぜそうなったのか?」を一緒に言語化します。 「今回受注できた一番の勝因は何だったと思う?」 「逆に、準備不足だったと感じる点はあった?」 この対話を通じて、部下の中に成功の再現性を高めるためのノウハウが蓄積されていきます。

2. 思考の癖に気づかせる

部下が話している内容から、その人の思考の癖やバイアスに気づき、フィードバックします。 例えば、すぐに「価格が高いから売れない」と結論づける部下に対しては、「本当に価格だけが問題だったのかな? 価格以上の価値を伝えきれなかった可能性はないか?」と問いかけ、視野を広げます。

3. 個人のキャリアと成長への寄り添い

営業の仕事を楽しむためには、単に数字を追うだけでなく、自身の成長実感や貢献実感が必要です。 「この仕事を通じて、どんなスキルを身につけたい?」 「将来、どんなキャリアを描いている?」 こうした対話を定期的に行うことで、会社の目標と個人の目標をリンクさせることができます。「やらされている営業」から「自分の成長のためにやる営業」へと意識が変われば、行動の質は劇的に向上します。

「属人化」から「組織の仕組み」へ

ここまでは個人の育成に焦点を当ててきましたが、組織全体として強くなるためには、特定の優秀な個人の力に依存しない体制づくりも重要です。

「あの人がいなくなったら売上が半減する」という状態は、経営として非常にリスクが高い状態です。目指すべきは、意欲ある社員であれば、誰でも一定の成果が出せる「再現性のある仕組み」の構築です。

そのためには、個人の頭の中にあるノウハウを、組織全体の資産として共有可能な形にする必要があります。 トップセールスが自然と行っている「ヒアリングの項目」「切り返しのトーク」「提案書の構成」などを分解し、標準的なプロセスとして整理する。そして、それを誰もが使えるツールやマニュアルとして落とし込む。

こうすることで、新人が入ってきたときの立ち上がりスピードが早くなりますし、マネージャーも「感覚」ではなく「基準」に基づいて指導ができるようになります。

仕組みがあるからこそ、人は安心してその上でパフォーマンスを発揮できます。「型」があるからこそ、そこから自分なりの工夫(「型破り」)を加えることができ、個性を発揮する楽しさが生まれます。仕組みと個性は対立するものではなく、仕組みが土台となって個性を支えるのです。

成果を出すためのPDCAを「小さく」回す

営業改善や人材育成というと、何か大掛かりな研修やシステムの導入をイメージされるかもしれませんが、実はもっとも効果的なのは、日々の小さな改善の積み重ねです。

いきなり完璧な営業マンにはなれません。まずは、 「明日の商談では、必ずこの質問を一つしてみよう」 「来週は、この資料の構成を少し変えて反応を見てみよう」 といった、無理なく実行できる小さな目標(スモールステップ)を設定させます。

そして、実行した結果どうだったかを素早く振り返り、また次のアクションを決める。この小さなPDCAサイクルを高速で回すことこそが、成長への近道です。

上司の役割は、このサイクルが止まらないように伴走することです。小さな成功体験を積み重ねさせることで、部下は「自分で考えて行動すれば、結果が変わる」という自信(自己効力感)を持つようになります。この自信こそが、仕事を楽しむための原動力となります。

おわりに:急がば回れ、の精神で

「答えを教える」マネジメントから「考えさせる」マネジメントへの移行は、最初は時間がかかりますし、忍耐も必要です。一時的に業務スピードが落ちたように感じることもあるでしょう。

しかし、目先の効率を優先して部下の考える機会を奪い続ければ、組織はいつまでもあなたの指示を待ち続け、あなた自身も永遠に現場の忙しさから解放されません。

社員一人ひとりが、自分の頭で考え、お客様のために何ができるかを追求し、仕事を楽しむ。そして、その結果として組織全体の業績が上がり続ける。そんな「自走する営業組織」を作るためには、経営者やリーダーが勇気を持って「待つ」「問う」「任せる」姿勢を見せることが大切です。

「そうは言っても、どこから手をつければいいかわからない」 「今のメンバーの特性をどう活かせばいいか悩んでいる」 「忙しすぎて、じっくり育成に取り組む仕組みが作れていない」

もし、そのようなお悩みをお持ちであれば、一度、外部の視点を取り入れてみるのも一つの手です。貴社の営業プロセスのどこにボトルネックがあるのか、どのような仕組みがあればメンバーが輝くのか、客観的なデータに基づいて整理するだけでも、打つべき手は明確に見えてきます。

人材育成と仕組みの構築は、一朝一夕にはいきませんが、正しい手順で取り組めば必ず成果となって返ってきます。まずは、現状の「見える化」から始めてみませんか。それが、強い組織を作るための確実な一歩となるはずです。